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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2014/02/03

YOUNG&BEAUTIFUL『17歳』

 第66回カンヌ国際映画祭コンペティション部門出品作品 


 初期作品から、欲望のメカニズムのミステリー、背徳とセクシュアリティについて描いてきたフランソワ・オゾン監督の最新作『17歳』。パリの名門高校に通うイザベルは、17歳の誕生日を迎える前に、夏のヴァカンス先で初体験を済ませる。新学期が始まった秋のパリ。放課後のイザベルは秘密の顔を持つ。市内のホテルで見知らぬ男たちと会い、金銭と引き換えに体を重ねる。ある日、「顧客」のひとりとなった初老の男が密会の最中に突然死し、動揺したイザベルはホテルから逃げるように立ち去る。が、男の死によって警察が介入し、イザベルの秘密は家族の知るところとなる。夏から春まで、フランソワーズ・アルディの曲が季節の変わり目に挿入され、17歳のヒロインの揺れ動く内面と身体の物語は四季ごとの物語で展開される。




 鮮烈なヒロイン、17歳の四季


 まず本作は、携帯電話、インターネット、SNSの普及などメディア環境の変化によって、ティーンエイジャーが「援助交際」をすることを、社会的な文脈から批判的に考察するような視点は持ち合わせていない。学費を稼ぐために売春する若い女性のインタビューは、イザベルの家族が見ているTVの音声として流れてくるが、彼女は経済的な必要性やお小遣い欲しさから、不特定多数の男たちと密会を重ねるわけではない。性的倒錯の悦びが問題となっているわけでもない。むしろ、なぜ売春に突き動かされるのか、「なぜ」の不透明さによって観客を挑発するようなフィルムである。イザベルを演じるモデル出身のマリーヌ・ヴァクトは、その不透明さを鮮烈に具現する。行為を終えたベッドの上で、彼女が見せる無防備かつ何かを達成したかのような不敵な笑み。1990年生まれ、20代で思春期の少女を何の違和感もなく演じている彼女の存在が、この作品の見どころのひとつであるといっても過言ではない(シャーロット・ランプリングと新進女優の起用といえば、オゾン作品では『スイミング・プール』(2003)が想起されるが、マリーヌ・ヴァクトが『スイミング~』のリュディヴィーヌ・サニエのように、女優として大躍進を遂げるかどうか…)。特権的な「美しさ」と「若さ」(本作の原題はJeune&Jolie、英語タイトルYoung&Beautiful)は、劇中では母親が行う「なぜ」の糾弾を無言のうちに跳ね返してしまう。




 オゾン監督による「古典」への挑戦


 ランボーの詩の引用「17歳ともなれば、まじめ一筋ではいられない」とともに本作は、思春期というさまざまなジャンルのアートが扱い、神話化もされてきたテーマに、売春という映画的に豊かなリファレンスを持つ題材を組み合わせた極めて野心的な作品、オゾン監督による「古典」への挑戦ともいえるだろう。

 

『17歳』 2月15日、新宿ピカデリー、シネスイッチ銀座ほかにて全国ロードショー (C)MANDARIN CINEMA – MARS FILMS –FRANCE 2. CINEMA - FOZ





【キャスト】


マリーヌ・ヴァクト(イザベル)


ジェラルディン・ペラス(シルヴィ)


フレデリック・ピエロ(パトリック)


ファンタン・ラヴァ(ヴィクトル)


ヨハン・レイセン(ジョルジュ)


シャーロット・ランプリング(アリス)




【スタッフ】


脚本・監督:フランソワ・オゾン


製作:エリック&ニコラス・アルトメイヤー


撮影:パスカル・マルティ


編集:ロール・ガルデット


音楽:フィリップ・ロンビ


2013年フランス映画/上映時間:94分/配給:キノフィルムズ


http://17-movie.jp

 

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