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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2014/12/11

GONE GIRL『ゴーン・ガール』

5回目の結婚記念日に姿を消した妻 ©2014 Twentieth Century Fox

 『ゴーン・ガール』、遍在する悪意

 悪意は、本作の主人公のひとりである。2時間29分、悪意は姿を変えながら遍在する。幼い頃から、”Amazing Amy”という人気絵本のモデルとして知られる美しくエレガントなエイミー(ロザムンド・パイク)にも、ユーモアに富んだ会話で異性に誘いかけるスマートなNYのライター、ニック(ベン・アフレック)にも、そして粉砂糖が雪のように舞う中でキスを交わし、誰もがうらやむような恋愛をして結ばれたふたりの間にも、悪意は容赦なく存在する。「イヤミス」(読後感が悪い、嫌な気分になるミステリー小説)の同名ベストセラーの著者ギリアン・フリン自身が脚本を手がけ、デヴィッド・フィンチャーの手によって映画化された『ゴーン・ガール』は、『氷の微笑』のシャロン・ストーンの脚の組み替えを、小学生の女の子の微笑ましい悪戯のレベルに引き下げる。おぞましくも、時折ダークな笑いを誘う本作の「懐の深さ」には圧倒される。

結婚記念日の「宝探し」のメッセージを読み解くニック(ベン・アフレック) ©2014 Twentieth Century Fox

 5回目の結婚記念日に突然姿を消した妻エイミー。彼女が残した結婚記念日の「宝探し」のメッセージを手がかりに、ニックは妻の行方を探す。作品前半は、主に彼の視点からエイミー失踪の真相究明の形をとる。幸福な結婚生活を送っていたはずのカップル。しかし、妻の日記が発見され、警察の捜索が進行するにつれ、夫婦の暗部が明らかになり、ニックは同情すべき夫から容疑者としてTVSNSを通して全米の注目を集める存在となる(『ソーシャル・ネットワーク』(2010)でFacebookの創設者に迫ったフィンチャーは、本作でワイドショーやSNSがセンセーショナルな事件に食い付き、個人を追いつめてゆくプロセス、現代メディアの症候的現象を効果的に作品に組み込んでいる)。ニックが抱えていた秘密の中でも、若い女性との関係は、観客だけでなく彼自身の双子の妹マーゴットの信頼を見事に裏切る、絶妙に残酷なタイミングで露見する。

美しくエレガントな妻エイミー(ロザムンド・パイク) ©2014 Twentieth Century Fox

 “クール・ガールの逆襲


 理想の夫だったニックの嘘と裏切りはそれ自体、見る者の内面を寒々しく浸食していくものだが、それを凌駕するのがエイミーの「悪女ぶり」、いや悪の権化そのものというべきあり方か。作品後半、これまで発生した出来事はエイミーの視点から語られる。不可避的に加速した結婚生活のほころび、失踪事件の真相と企図 オセロの白い面があっという間に黒に塗り替えられるように、見る者が抱いていたであろうエイミー像は崩壊する。そもそも、子供の頃から絵本のヒロインの実在のモデルとして名を馳せ、ニックが求める理想の女性像クール・ガールを秘かに全力で演じてきたという体験の鬱積(さらに、その「努力」にもかかわらず、NYの華やかな新婚生活からミズーリ州の田舎町への「都落ち」と夫の失業)が、エイミーの悪意がアクションとして暴走していく負のエネルギーとなっているように思われる。フットボールやポーカーや汚いジョークが大好きで、安いビールを飲み、ホットドッグやハンバーガーをお腹いっぱい頬張りながらサイズ2を保つ、セクシーで面白い、輝くようなクール・ガール。「男受け」する女性を演じることへのエイミーの憎しみに満ちた原作のフレーズは、著者フリンを介して、エイミー役のロザムンド・パイクによって、鋭利なカミソリのように容赦なく繰り出される。『007 ダイ・アナザー・ディ』(2012)では、どこか優等生的なボンド・ガールだったパイクも、本作では血も凍るような変貌をみせる(事件の捜査を指揮するボニー刑事役のキム・ディケンズ、ニックの妹を演じるキャリー・クーンなど、本作では女性キャストの好演がとりわけ印象的)。映画史には、男性の破滅に導く「ファム・ファタール」の系譜が存在するが、エイミーにはクラシカルな「運命の女」に漂う、邪悪さと相反する儚さは見出せない。男性を破滅に陥れるだけでは飽き足らず、地獄の中でも引きずり回すような底なしのスケールを感じさせる。



 フィンチャーによる「恐怖映画」の新解釈


 作品冒頭、めまぐるしく入れ替わるエスタブリッシュショットからラストにいたるまで、ショットはリズミカルに転換し、同一空間における画面のアングルもドラマティックに切り替わる。『ソーシャル・ネットワーク』、『ドラゴン・タトゥーの女』のスコアを担当したトレント・レズナー&アッティカス・ロスとフィンチャーのコラボレーションは本作でも確かな成功を収めており、見る者の不安感をあおりながら、輪郭のない凶悪さが迫ってくる緊張感を高めている。失踪事件の謎解きは、この作品の恐ろしさの核ではないだろう。頭蓋骨を割ってみなければ、愛していたはずの人が何を考えているのか分からない。そこにいたるまで、何も気づくことができなかった男と何でもやり遂げてしまう女。デヴィッド・フィンチャーは、『ゴーン・ガール』によって、カップルの新たな「恐怖映画」を提言する。


 『ゴーン・ガール』 GONE GIRL

12月12日(金)全国ロードショー

アメリカ/2014年/2時間29分/カラー/デジタル

公式サイト: http://www.foxmovies-jp.com/gone-girl/

Facebook: http://www.facebook.com/GoneGirlJP

Twitter: http://twitter.com/GoneGirlJP


【キャスト】

ベン・アフレック(ニック・ダン)

ロザムンド・パイク(エイミー・ダン)

ニール・パトリック・ハリス(デジー・コリンズ)

タイラー・ペリー(ターナー・ボルト)

キャリー・クーン(マーゴット・ダン)

キム・ディケンズ(ロンダ・ボニー刑事)

パトリック・フュジット(ジム・ギルピン刑事)

エミリー・ラタコウスキー(アンディ)

ミッシー・パイル(エレン・アボット)

ケイシー・ウィルソン(ノエル)

デヴィッド・クレノン(ランド・エリオット)

ボイド・ホルブルック(ジェフ)

ローラ・カーク(グレタ)

リサ・ベインズ(メアリーベス・エリオット)


【スタッフ】

監督:デヴィッド・フィンチャー

脚本/原作:ギリアン・フリン

製作:アーノン・ミルチャン、ジョシュア・ドネン、リーズ・ウィザースプーン、セアン・チャフィン

製作総指揮:レスリー・ディクソン、ブルーナ・パパンドレア

撮影:ジェフ・クローネンウェス

プロダクション・デザイン:ドナルド・グラハム・バート

編集:カーク・バクスター

衣装:トリッシュ・サマーヴィル

音楽:トレント・レズナー&アッティカス・ロス

20世紀フォックス映画 配給




























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