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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2016/03/24

BATMAN V SUPERMAN: DAWN OF JUSTICE『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』

©2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

  鍛え上げられた肉体を、カッティングの美しいスーツに包んでいるときは、まばゆいばかりに爽やかな好青年。ひとたび優美にマントをなびかせて飛び立てば、この世の悪に敢然と立ち向かい、たちどころに一網打尽にしてしまう。一点の曇りもないような輝かしいスーパーヒーロー。残念ながら私たちは、そんなヒーローの活躍がしっくりとフィットする「時代の空気」の中に生きていない。重苦しい不安、いい知れない寂寥感、先の見えないダークネスが皮膜のように視界を覆っているような錯覚にかられる『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』の世界のトーンは、ある意味、とても現代的だ。そして、この世界においては、「人類の救世主」であるはずのスーパーマンでさえ「堕ちた神」、「人類の敵」として独裁政権の暴君のごとく、正義の味方の座から人々に引きずり下ろされ、攻撃される。

©2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

 スーパーヒーローは人類の平和を守るために戦うと同時に、メトロポリスにとてつもないダメージを与え、環境を破壊してしまう者でもある。本作はこれまでのヒーロー映画では、もっともらしさのルールに守られていた「暗部」にメスを入れる(超人ではないバットマン、リアルな世界でのビール腹を解消したベン・アフレックが、ワールドカップにのぞんだラグビー日本代表のごとく、肉体の鍛錬に励む姿も)。さらに、バットマンとスーパーマンというコミックスの2大キャラクターがひとつの作品において(説得力をもって)対峙するために、後者を前者のダークサイドに一端、身も心も投じさせる。ヘンリー・カビルが初めて「S」に見える紋章つきのスーツを身につけた『マン・オブ・スティール』(2013年)は、冒頭において、父の死と両親との永劫の別れが強く印象づけられるが、この作品でも肉親の死は大きく影を落とし、クライマックスにつながる鍵を握っている。フィルムはバットマンの視点、つまり銃弾に親を奪われたバットマンの幼少期の記憶から幕を明け、二人のスーパーヒーローが接近するために、空中分解すれすれの壮大なプロットの広がりが用意される(152分という長尺が必要だったかは疑問。特に前半部はもう少し整理できただろう)。スーパーヒーロー同士を結果的に結びつけることになる一因は、凡庸な肉体に非凡な富と悪才を備えた若き実業家レックス・ルーサー(財力と「おたく」のコミカルかつサーカスティックな融合を体現するジェシー・アイゼンバーグ)の策略であり、スーパーマンの恋人ロイス・レイン(手堅いエイミー・アダムス)、バットマンを支える執事アルフレッドなど、それぞれのキャラクターも本作に巧みに織り込まれている。この作品において展開されるのは、二人のスーパーヒーローの拮抗だけでなく、レックスとバットマン/ブルースという大企業のトップ、資産家同士の争いでもある。ヒーロー役を男性だけに独占させてはなるものか、と言わんばかりに登場するワンダーウーマンには、バットマンもスーパーマンも劇中で一瞬当惑するような場面もあり、本作に続く作品の構想がなければ、彼女の存在は唐突以外の何ものでもなくなってしまう。シリーズ化を前提とした「つなぎ」のフィルムという批判も、完全には否定できない。

©2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC

 『マン・オブ・スティール』ではスーパーマンの超人ぶりの描写に、やや笑いを誘う荒唐無稽さも入り交じっていたが、バットマンの夜の闇から、炎と極彩色の閃光が横溢する戦いを経て、「ジャスティスの誕生」するモノトーンの夜明けまで、ゴシックなビジュアルは濃密で、サウンドにも抜かりがない。ロングショットに浮かび上がる、ひとりたたずむバットマンのシルエットには、このキャラクターの闇との親和性の高さを改めて思い知らされる。製作総指揮を務めるクリストファー・ノーランの監督作『ダークナイト』3部作のスタイルの独自性と完成度を、監督ザック・スナイダーにいきなり求めるのは酷であることは承知の上で、成熟を超えたバットマンの退廃に触れたスーパーマンの今後に期待したい。



『バットマン vs スーパーマン ジャスティスの誕生』

BATMAN V SUPERMAN: DAWN OF JUSTICE

2016年/アメリカ映画/152分/3D+2D, IMAX 3D+2D

3月25日(金)3D/2D/IMAX 公開

オフィシャルサイト

http://wwws.warnerbros.co.jp/batmanvssuperman/


【キャスト】


ベン・アフレック(ブルース・ウェイン/バットマン)


ヘンリー・カビル(クラーク・ケント/スーパーマン)


エイミー・アダムス(ロイス・レイン)


ジェシー・アイゼンバーグ(レックス・ルーサー)


ダイアン・レイン(マーサ・ケント)


ローレンス・フィッシュバーン(ペリー・ホワイト)


ジェレミー・アイアンズ(アルフレッド)


ホリー・ハンター(フィンチ議員)


ガル・ガドット(ダイアナ・プリンス/ワンダーウーマン)




【スタッフ】


監督:ザック・スナイダー


製作:チャールズ・ローブン、デボラ・スナイダー


脚本:クリス・テリオ


脚本/製作総指揮:デビッド・S・ゴイヤー


製作総指揮:クリストファー・ノーラン、エマ・トーマス、


ウェスリー・カラー、ジェフ・ジョンズ


撮影:ラリー・フォン


美術:パトリック・タトポロス


編集:デビット・ブレナー


衣装:マイケル・ウィルキンソン


視覚効果監修:ジョン・“DJ”・デジャルダン


音楽:ハンス・ジマー、ジャンキーXL


配給:ワーナー・ブラザース映画

©2016 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC., RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC AND RATPAC ENTERTAINMENT, LLC
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