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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2017/05/02

PERSONAL SHOPPER『パーソナル・ショッパー』

©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

 『アクトレス ~女たちの舞台~』に続き、最新作『パーソナル・ショッパー』でもオリヴィエ・アサイヤスは、現代映画の最も挑戦的で野心的な作り手のひとりであることを証明してくれる。多忙なセレブリティに代わって、一流メゾンの洋服やアクセサリーを独占的に買い付け、影のスタイリストの役割も果たすパーソナル・ショッパー。そのタイトル・ロールに『アクトレス』でジュリエット・ビノシュとスリリングな競演を果たしたクリステン・スチュワートを迎え(他にも前作の出演者に再会できる)、華々しいブランドの協力を受けて制作された本作は、一見、エッジのきいたモードな映画のような印象を与える。実際、ヒロイン、モウリーンが身にまとうものをはじめ、衣装やセットはそのディテールに到るまで、重要な役割を担っているが、『パーソナル・ショッパー』はモードがメインの映画ではない。作品の展開を推し進める駆動力となる女性たち、そして時の流れ・推移というアサイヤスと切り離せないテーマが、私たちを取り巻く世界の「今」という感覚とそれを構成するもの、さらに、もはや「今」を共有できなくなってしまった人々と彼らの世界とスリリリングに結びついている。

©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR

  モウリーンは、ファッションと欲望、消費という「今」のうつろいを象徴する仕事をしながら、同時に死者の世界との媒介役も務める。中東で働く恋人らしき存在はいるが、心臓発作で急死した双子の兄ルイスからの「サイン」を受け取るために、パリを離れることができない。極めて表層的できらびやかな世界で疾走、疲弊しながら、唐突に深い哀しみに続く領域、魂が凍えるような闇に足を踏み入れ、望むと望まざるに関わらず異なる世界を往還するモウリーン。クリステン・スチュワートの演技は、ここでも恐ろしく的確で、無駄や弛緩がなく、送り主不明のメッセージに追い詰められていく様子は、ハリウッドの古典のジャンル映画のヒロインにも通じる宿命性を感じさせる。同時に、彼女が体現するアイディンティティの危機やセクシュアリティの揺らぎは、疑いなく現代のものだ。


 クリステンを念頭に置いて書かれたという脚本が包含する多様なモチーフや緻密に織り成されたテーマ性は、見る者の中で無数に連結して広がり、エンドクレジットを経ても、イマジネーションを刺激し続ける。おそらくクリステン自身も、最初にアサイヤスのシナリオに大いにインスパイアされたひとりだろう。入念に作り込まれたシナリオから、一気呵成に撮り上げてしまったかのように見せる演出は、進化し続けるアサイヤス作品の魅力だ。そのスリルとスピード感、ホラー映画やサイコサスペンスとの親和性を持ちながら、決して一つのジャンルに収斂しないフィルムのプリズムのような輝き、縦横無尽な力。そのダイナミズムは、私たちが手にとって感じようとしてもするりと逃げられてしまう、「今」という時のあり方そのものではないだろうか。

©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR


『パーソナル・ショッパー』 Personal Shopper


5月12日(金)、TOHOシネマズ 六本木ヒルズほか全国公開



2016年/フランス映画/1時間45分

公式サイト http://personalshopper-movie.com/




©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR



【キャスト】    


クリステン・スチュワート(モウリーン)


ラース・アイディンガー(インゴ)


シグリッド・ブアジズ(ララ)


アンデルシュ・ダニエルセン・リー(アーウィン)


タイ・オルウィン(ギャリー)


アンムー・ガライア(警官)


ノラ・フォン・バルトシュテッテン(キーラ)


バンジャマン・ビオレ(ヴィクトル・ユーゴー)


オードリー・ボネット(カサンドル)


パスカル・ランベール(ジェローム)


【スタッフ】 


監督:オリヴィエ・アサイヤス 


製作:シャルル・ジリベール


脚本:オリヴィエ・アサイヤス


撮影:ヨリック・ル・ソー


美術:フランソワ=ルノー・ラバルテ


編集:マリオン・モニエ 


衣装:ユルゲン・ドーリング


配給:東北新社 STAR CHANNEL MOVIES




©2016 CG Cinema – VORTEX SUTRA – DETAILFILM – SIRENA FILM – ARTE France CINEMA – ARTE Deutschland / WDR
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