ディズニーアニメ×マーベル・コミックス
マーベル・コミックスといえば、スパイダーマンやハルク、X-メンなど、映画化された作品も多い。マーベルのアーカイブから、ディズニーアニメ映画のクリエイターが再発見したのは、発表当時、人気も知名度もなかった『ビッグ・ヒーロー・シックス』。超能力を持つ6人の日本人が活躍する原作にアレンジが加えられ、ディズニーアニメとしては初めてマーベル・コミックスのキャラクターかつ人工知能ロボットが主人公となる『ベイマックス』が誕生した。監督のひとり、ドン・ホールは「日本のポップカルチャーへのラブレター」のような原作からインスパイアされ、日本的な要素はさらなる進化を遂げた。作品の舞台は、サンフランシスコと東京をミックスした架空の街「サンフランソウキョウ」。実写の映画では『ブレードランナー』(1982)の近未来のロサンゼルスにおける日本のネオンが有名すぎるほどだが、本作ではサンフランシスコの地形および特有の町並み(高層ビル群やベイエリア、カウンターカルチャーのムーブメントで知られるヘイト・アシュベリー地区)と東京のサイン・看板、建築様式などが鮮やかに融合している。
East meets west「サンフランソウキョウ」の創造
14歳の主人公ヒロは天才的な科学の才能を、お金を賭けて自作のロボットを戦わせる違法のロボット・ファイトに費やす日々。作品はロボット・ファイトの場面から幕を開け、幼い頃に両親をなくしたヒロと兄タダシ、彼らの母親役をつとめる叔母キャスの関係をテンポよく描く。タダシは、将来的なビジョンを持たない弟を、自身が通うサンフランソウキョウ工科大学に連れてゆき、ラボの仲間やロボット工学の第一人者、キャラハン教授と出会ったヒロは、大学への進学を決意する。入学をかけた研究発表会。その会場で起ったアクシデントがタダシの命を奪う。作品の時間の進行と起承転結、涙と笑いの要素をグラフ化したならば、バランスのよい波形ができるのではないかと思わせるほど、ストーリー展開は効率的に設計されている。
緩慢さの優美
喪失の体験とともにヒロに残されたのは、兄が生み出した「ケア・ロボット」のベイマックス。身体の異常を一瞬でスキャンすることができ、一万通りもの治療法がプログラミングされている。本作の最大の魅力は、このベイマックスの存在であるといっても過言ではないだろう。日本の鈴からデザインされた、パーツを絞り込んだ顔に、従来のロボットのメタリックな冷たさや堅さとは対極の、空気に満たされた柔らかく「グラマラスな」ボディ。赤ちゃんペンギンのよちよち歩きを研究して再現された動作(顔や体の動きにともなう効果音もキュートでデリケート)。人間をケアすることが存在意義であるため、戦闘意欲も能力も持ち合わせておらず、悪役と対峙するシーンや逃走の場面では、ヒロを助けるのではなく、逆にヒロに助けられることも多い。歴代のディズニーアニメのキャラクターの中でも、ミニマル・デザインの極み、愛らしくも優美な緩さを見事に発揮してくれる。そしてクライマックスに向けて、ヒロの発明の才によって、微笑ましくも鈍臭いベイマックスは、バイオレンスに傾倒しないスーパーヒーローのパワーとスピードを獲得する。ヒロとタダシの兄弟愛、大学の仲間たちのチームワークなど、複数のテーマ性は見出されるが、残念ながらすべてが十分な発展をみるわけではない。特に本作のみでは、6人のそれぞれが得意分野を生かし、「ヒーロー・シックス」として機能している印象は薄い。「本作のみでは」というのは、エンドクレジットのあとのボーナス映像が、強く続編を期待させるものであるからだ。ハグしたくなるロボットのリターンが純粋に楽しみでもある。
ベイマックス BIG HIRO 6
2014年12月20日(土)全国ロードショー
アメリカ/2014年/カラー
作品公式サイトへ
http://www.disney.co.jp/movie/baymax.html
ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパンの公式サイトへ
【声のキャスト】
ヒロ:ライアン・ポッター
ベイマックス:スコット・アツィット
フレッド:T.J.ミラー
ゴー・ゴー:ジェイミー・チャン
ワサビ:デイモン・ウェイアンズ・Jr.
ハニー・レモン:ジェネシス・ロドリゲス
タダシ:ダニエル・ヘニー
キャス:マーヤ・ルドルフ
ロバート・キャラハン教授:ジェームズ・クロムウェル
アリステア・クレイ:アラン・テュディック
【スタッフ】
監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ
製作:ロイ・コンリ
製作総指揮:ジョン・ラセター
脚本:ロバート・L.ベアード、ダニエル・ガーソン
ヘッド・オブ・ストーリー:ポール・ブリッグス
プロダクション・デザイン:ポール・フェリックス
音楽:ヘンリー・ジャックマン
配給:ウォルト・ディズニー・スタジオ・ジャパン