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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2015/01/07

CROCODILE (TOKYO FILMeX 2014, Competition)『クロコダイル』(第15回東京フィルメックス、コンペティション)

 

 フィリピンの俊才フランシス・セイビヤー・パション


 世界中のフレッシュな才能をいち早く紹介する刺激的な映画祭として知られる東京フィルメックス。本年度の最優秀作品賞に輝いたのは、フィリピンの新鋭映画作家フランシス・セイビヤー・パションによる『クロコダイル』。昨年のフェスティバルで観客賞を受賞し、日本でも劇場公開された『イロイロ ぬくもりの記憶』(アンソニー・チェン監督、2013年)のメイド役が印象的だったアンジェリ・バヤニが主演を務める。『クロコダイル』にはタイトル通りワニが登場するが、ホラーやパニック映画ではない。作品はフィリピンの湿地帯アグサンを舞台に、水上で暮らすマノボ族のコミュニティー、彼らの暮らしや文化、信仰などを含めて、実際に現地で起った事件を題材にしている。




 虚と実の合間で


 娘のロウィナの12回目の誕生日を祝おうとしていたディヴィナ。娘の学費を支払うのもままならない一家のささやかながらも穏やかな生活は、突然の事件によって打ち破られる。友人と船で下校していたロウィナが巨大なワニに襲われ行方不明になってしまう。言葉を失う父親と悲嘆にくれる母親。娘の遺体を探すため、ディヴィナは湿地帯をさまよう。ストーリーは一見、娘を失った母親のヒューマンドラマを思わせるが、予想以上に重層的なフィルムだ。冒頭、主人公らが暮らすアグサンのワニに関する民間伝承が紹介され、人々に語り継がれてきたワニは、作品後半、ディヴィナが遭遇する巨大なワニと重なり合う。また、キャストによって演じられるドラマパートの他に、母親がインタビューを受けるドキュメンタリー的パートがあり、虚と実が揺るぎのないスタイルで織り込まれている。作品の着想や制作手法は異なるが、アッバス・キアロスタミ作品を彷彿させるクレバーさ、現実世界に対する独自の観察眼が際立つ。


 観光でおなじみのマニラの街角でも、ビーチリゾートでもない、フィリピンの光景、アグサンの湿地帯の広大な水の広がりは、人々の記憶、日常における生と死のせめぎ合いを滑らかな鏡面のような輝きとはかり知れない深みにたたえており、川の空撮のショットは作品全体にダイナミズムを与えている。遺体が発見され、その臭いが人々の顔を曇らせる場面は、自然と共生しているようで、実は人間の存在はもはやオーガニックに「リサイクル」できないことを残酷にも突きつける。シンプルなストーリーをもとに映画の想像力・創造力の伸びやかな勢いを感じさせてくれる作品だ。


クロコダイル Crocodile / Bwaya

フィリピン/2014年/88分


東京フィルメックス公式サイト: http://www.filmex.net/


【Cast】


Ageli Bayani (Divina)


Karl Medina (Rex)


RS Francisco (Nestor)


Jolina Salvado (Rowena)




【Crew】


Written and directed by Francis Xavier Pasion


Executive producer: Nico Antonio, RS Francisco, Francis Xavier Pasion, Samuel S. Verzosa


Producer: Ferdinand Lapuz


Cinematography by Neil Daza


Film editing by Carlo Francisco Manatad


Production design by Maulen Fadul


Music by Erwin Fajardo

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