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Column

Kiyomi Ishibashi:Cinema! 石橋今日美

2015/10/30

Se Dio Vuole『神様の思し召し』(第28回 東京国際映画祭コンペティション)

©2015 WILDSIDE

  『神様の思し召し』の主人公トンマーゾは、敏腕の心臓外科医として社会的・経済的な成功をおさめ、周囲の人々にも、その自負と傲慢さを隠さない。息子のアンドレアは医学部に通い、トンマーゾは自分の跡を継ぐものとして期待をかけている。しかし、ある日、家族の前で、アンドレアが医師ではなく司教になりたいと爆弾発言。さらに美しき専業主婦のカルラも、夫と退屈な家庭生活に反旗を翻し、トンマーゾは私生活において窮地に立たされる…

 脚本家としてキャリアを積んできたエドアルド・ファルコーネの長編デビュー作にあたる『神様の思し召し』は、本年度の東京国際映画祭コンペティションの中でも、一番「とっつきやすい」作品だろう。宗教、同性愛、職業選択と社会的階層といった「政治的な」テーマに、冒頭からテンポよく、ストレートなユーモアでアプローチし、観客の爽快な笑いを誘う。トンマーゾの娘ビアンカの苦労知らずのお嬢さんらしい、能天気なずぼらさも、義父に軽蔑されている彼女の夫のキャラクターも、ステレオタイプほど嫌みなく、見る者を楽しませてくれる。人生の勝者として振る舞ってきたトンマーゾが、小さな教会の改修作業に汗を流し、ストリートフードをほおばる。笑いだけではなく、主人公の心理的変化と男同志の友情に素直に引き込まれる。けれども、ナンニ・モレッティの作品に馴染みのあるものなら、物足りなさを否定できない(色あせない魅力を放つカルラ役のラウラ・モランテは、ナン二・モレッティ作品へも出演。さらに宗教、バチカンがらみではモレッティの『ローマ法王の休日』が想起されてならない)。もちろん、単なるイタリア映画の枠を超えて、唯一無二のフィルムを作り続けてきたからこそ、ナンニ・モレッティはナンニ・モレッティであり、容易に彼に匹敵する映画作家が登場するとは思われない。寛容な気持ちで、新人監督の作品を見守るべきなのかもしれない。


『神様の思し召し』Se Dio Vuole

2015年/イタリア/87分

 

【キャスト】

マルコ・ジャッリーニ(トンマーゾ)


アレッサンドロ・ガスマン(ドン・ピエトロ)


ラウラ・モランテ(カルラ)


イラリア・スパーダ(ビアンカ)


エドアルド・ペーシェ(ジャンニ)


エンリコ・オティケル(アンドレア)




【スタッフ】


監督・脚本:エドアルド・ファルコーネ


脚本:マルコ・マルターニ


プロデューサー:マリオ・ジャナーニ、ロレンツォ・ミエーリ


音楽:カルロ・ヴィルズィ


撮影監督:トンマーゾ・ボルグストロム


編集:ルチャーナ・パンドルフェッリ


衣装:ルイジ・ボナンノ


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