『プリティ・ウーマン』を想起させるドレスをまとったジュリア・ロバーツに、初めてカンヌ国際映画祭のレッドカーペットを歩く好機を与えた『マネーモンスター』(コンペ外上映作品)。『タクシー・ドライバー』の娼婦役で初カンヌの喧噪を体験したジョディー・フォスターは、今回は本作の監督としてカンヌ入りを果たした。プレミア上映後、スタンディングオベーションが起こったと報じられるが、『マネーモンスター』の各国の映画評は芳しくない。
全米で高視聴率を誇る財テク番組「マネーモンスター」。その生放送中のスタジオに、拳銃を手にした若い男カイル(ジャック・オコンネル)が乗り込み、司会のリー・ゲイツ(ジョージ・クルーニー)ごと爆弾で吹き飛ばすと脅しながら番組をジャック。何千万人の視聴者に一部始終が伝えられる中、無謀な要求をつきつける犯人、人命を救おうとする警察、リーのトークの暴走を抑えながら、犯人を刺激しないように、何とか番組を進行させようとするディレクターのパティ(ジュリア・ロバーツ)。リアルタイム(正確には“ほぼ”リアル)で展開するサスペンスの割には、スリルや緊張感がない、という批判が目につくのだが、『ダイ・ハード』ばりのアクション大作のハラハラ感を本作に求めるのは、どこかピントがずれているのではないか。
また、ごく限られた超富裕層が世界の富を牛耳るカラクリの解明、金融業界やマスコミに対する告発をこの作品に求めるのも、どこかお門違いの感が否めない。実際、本作を見て、いかに大企業が暴利をむさぼっているか、ジャーナリスト気取りの「セレブ」がどれだけ嘘つきかについて、今さら学ぶことはない。ドナルド・トランプが大統領予備選で勝利をおさめ、パナマ文書が(今さらのように)公開される今日、ウォール街への人々の怒りや不信感は、映画作品に刺激されなくても鬱積しており、すべてが払拭されるカタルシスをこの一本に求めるのは、あまりにも過剰な期待というものだ。
現実世界の不正にリアルにメスを入れるわけではないが、搾取され続ける、あまりにもナイーブな「カモ」には甘んじないためのビジョンを手に入れたような感覚(あるいは錯覚)。それが本作の「エンタテイメント性」ではないか。その意味での娯楽性を持ったwell-madeでfeel-goodなフィルムに仕上げるために、ジョージ・クルーニーとジュリア・ロバーツという文句のつけようのないスターが起用され、それぞれに新鮮味はないが、危なげもなく、説得力に満ちたパフォーマンスを披露している。細々と株に投資する庶民の苦労を思い描くこともなく、富裕層と持ちつ持たれつで私腹を肥やしながら、おすすめの銘柄を紹介する、あっけらかんと無責任なリー。そんなリーが、ジャックとともに、自分の足で現場に向かい、真実をつかみとろうとする、遅ればせながらのジャーナリズムへの「目覚め」や、絶体絶命の危機に瀕しているときこそ、スタッフとの信頼関係を発揮し、コントロールルームを冷静に統制するパティの判断力と手腕は、見る者の感性とエモーションにストレートに働きかけるように描き出されている(スケジュールの都合で、『オーシャンズ12』のふたりは、実際にはほとんど一緒にカメラの前に立つことはなく、ジュリア・ロバーツは出演シーンの多くをグリーンバックでこなしたのは残念ではあるが、その事実はスクリーン上)。見るべきは主演のコンビだけではない。シリアスな展開の中で、笑い誘う「スター・ウォーズ」のキャラクターの声をしたハッカーから、犯人との交渉にかり出されるカイルの恋人、株価が大暴落した大企業の広報担当ダイアン・レスター役のカトリーナ・バルフまで、層の厚いキャスティングには裏切られることはない。
扇情的なドキュメンタリータッチや、正義感を振りかざす(無用に長尺な)ドラマ路線などに迷走することなく、リアルとスペクタクルの見事なバランスで、グローバリゼーションの代償を捉えた点に、監督ジョディー・フォスターの聡明さが実感される。
『マネーモンスター』 Money Monster
2016年アメリカ映画/スコープサイズ/1時間39分
6月10日(金)全国ロードショー
公式サイト
【キャスト】
ジョージ・クルーニー(リー・ゲイツ)
ジュリア・ロバーツ(パティ・フェン)
ジャック・オコンネル(カイル・バドウェル)
ドミニク・ウェスト(ウォルト・キャンビー)
カトリーナ・バルフ(ダイアン・レスター)
ジャンカルロ・エスポジート(パウエル署長)
【スタッフ】
監督:ジョディ・フォスター
脚本:ジェイミー・リンデン、アラン・ディ・フィオーレ、ジム・カウフ
原案:アラン・ディ・フィオーレ、ジム・カウフ
製作:ダニエル・ダビッキ、ララ・アラメディン、
ジョージ・クルーニー、グラント・ヘスロフ
製作総指揮:ケリー・オレント、ティム・クレイン、
レジーナ・スカリー、ベン・ワイスブレン
撮影:マシュー・リバティーク
編集:マット・チェシー
プロダクションデザイン:ケヴィン・トンプソン
配給:ソニー・ピクチャーズ エンタテインメント