ビューティー・コンテストに出場することを職業とするトランスジェンダーのトリシャが、突然死んでしまう。幼い頃からビューティー・クイーンに憧れていた彼女の望みは、埋葬前のお通夜の儀式で、毎晩違ったセレブの装いをまとうこと。あくまで男性として埋葬しようとするトリシャの父親に対し、生前の彼女と親しかった人々は、トリシャの願いを実現しようとする。
子供時代から思春期、コンテストに挑む日々、そして死後まで、作品はトリシャの生の断片を、リニアな時間軸にとらわれることなく、自由に紡いでゆく。ヴィヴィッドなカラーに彩られた一見、奔放な人生。しかし、トリシャにも容易に言葉にできないトラウマを抱えている。しかし、その傷や痛みにことさらフォーカスしたり、事の重大さを誇張したりするような演出意図は見られない。逆に深く言及されないことで、作品の「光」-トリシャのユーモアと生のエネルギー、それを連想させる、過去と現在を縦横無尽に行き来する語りのダイナミズム - と対比される形で、「闇」が見る者の胸にすとんと落ちてくる。
監督のジュン・ロブレス・ラナは、フィリピンで最も人気のある映画監督のひとりで、主演のトリシャ役にはバラエティー番組の司会などで知られるパオロ・バレステロスを起用。彼はもともと、マリリン・モンローやオードリー・ヘップバーンなどのアイコンから現代の女優、シンガーに「ものまねメイク」でなりきることで話題を集める人物で、本作でも例えばジュリア・ロバーツに扮した場面は、本物を凌駕する(?)チャーミングな魅力を放っている。トランスジェンダーの「特異性」や政治性(2014年に実際に起こったトランスジェンダー殺害事件に着想を得ている)に傾倒することなく、一種の包容力のある一代記を描ききり、東京国際映画祭では観客賞、最優秀男優賞の2冠に輝いた。
Die Beautiful
2016年/フィリピン/120分
【キャスト】
パオロ・バレステロス(トリシャ)
クリスチャン・バブレス(バーブス)
グラディス・レイエス(ベス)
ジョエル・トーレ(トリシャの父)
【スタッフ】
監督・プロデューサー・原案:ジュン・ロブレス・ラナ
エグゼクティブ・プロデューサー:ペルシ・インタラン
プロデューサー :フェルディナンド・ラプス
ライン・プロデューサー:オマール・ソルティハス
脚本:ロディ・ベラ
撮影監督:カルロ・メンドーサ
編集: ベン・トレンティーノ
作曲:リカルド・ゴンサレス
プロダクション・デザイナー :アンヘル・ディエスタ