作品は冒頭から重苦しくいたたまれない出来事を観客に突きつける。侵入者に暴行される女性。音声を意図的にカットし、断片化されたアップのショットの連続によって、残虐さと暴力性が強調される。それだけではない。暴行を目撃してしまう男。現場を目撃してしまった苦悩が、手に突き刺さるサボテンの棘によって象徴される。なぜ彼が男たちの行為に介入することができず、その場から立ち去られねばならなかったのかは、ほどなくして明らかになる。事件の被害者は男の妻ディアナであり、妻は夫マリオや家族に何が起こったのか、打ち明けることができない。
ブラジルの気鋭監督、マルコ・ドゥトラによる『空の沈黙』は、亀裂の入った関係を修復しようとしていた夫婦が、性的暴力事件の被害者/目撃者となり、それぞれの秘密を抱え込んでしまう沈黙の重みと心理の陰影に肉迫する。光と影のコントラストが印象的に設計された画面構成、抑制のきいたダイアローグと音の演出、冒頭の植物を始めとするメタフォリックな恐怖のモチーフ。濃密な心理劇/スリラーが展開される。犯人とおぼしき青年とその母親に夫が迫る場面で、老いた母親が足を引きずって歩く、その足取りなど、アクションや言葉の行間を埋めるディテールに巧みさが光る。ラストまで弛緩を知らず、安易な救済に流れることもない「果敢な」フィルムだ。
『空の沈黙』Era el Cielo
The Silence of the Sky
2016年/ブラジル/102分
【スタッフ】
レオナルド・スバラーリャ(マリオ)
カロリーナ・ジッケマン(ディアナ)
チノ・ダリン(ネストール)
アルバロ・アルマンド・ウゴン(アンドレス)
ミレージャ・パスクアル(マレーナ・ゴロスティアガ)
【キャスト】
監督 : マルコ・ドゥトラ
脚本 : セルヒオ・ビージオ
脚本 : カエタノ・ゴタルド
撮影監督 : ペドロ・ルケ
編集 : エドゥアルド・アキノ
プロダクション・デザイナー : マリアナ・ウリザ
音楽 : ギリェルミ・ガルバト
音楽 : グスタヴォ・ガルバト