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Column

Professional Golfer:Yuka Shiroto 白戸由香

2016/02/23

Meeting a Professional Athlete - Interview with Yuka Shiroto vol.10プロアスリートに聞く - 白戸由香選手インタビュー vol.10

『LPGAレジェンズチャンピオンシップ アイザックカップ』(左)と『アリナミンVカップ』(右)にて優勝を決めた白戸由香選手

 レジェンズ通算3勝目を達成

 スコアメイクにこだわり、勝利をゆずらない。その意味で2015年は白戸由香選手にとって、大いに満足できる年だった。45歳以上の選手によって競われるシニアの公式戦『LPGAレジェンズチャンピオンシップ アイザックカップ』(723日~725日、小杉カントリークラブにて開催)とLPGAレジェンズツアー最終戦『アリナミンVカップ』(93日~94日、泉国際ゴルフ倶楽部にて開催)を制し、レジェンズ通算3勝目を飾った。


 「LPGAの公式戦でタイトルをとりたいという想いはずっとありました。アンダースコアでラウンドするというのは通年の目標で、バーディをとらないとスコアは下がらないので、バーディ数をとれたというのはすごく大きかった。パターはシニアになってからよくなったのかな。バーディ率ももちろん上がっているし、そういう意味ではショートゲームがレギュラーのときより、よくなっていると自分では思っていて。もちろんレギュラーツアーより、距離が500ヤードくらいは短くなっているので、それだけチャンスも多いんですよね」


 では、自らが思い描くゴルフのスタイルに近づけているか。その意味では、決して満足はしていない。

 「自分がしたいゴルフの内容、ショットの内容はよくはなかった。反省する点の方が多い。成績に対しての評価はしているけども、今やっている練習に対して、自分が目指している内容にはまだまだ届かない」

 体をなめらかに、しなやかに使うこと。上体の力を抜いて打つショット。白戸選手がひたむきに打ち込む「自分がしたいゴルフ」と、そこに近づくためのトレーニングの日々。練習でも試合でも、ボールと向き合う自分は同じ。しかし、練習でミスはできても、試合ではそれが許されない。さらに実戦ではミスの傾向が出やすくなる。

 「試合っていうのは、長年体にしみついた悪い癖が出やすい。それであってもスコアをつくるというのがプロだと思うんですけど、やっている練習の内容の半分も試合では出ていないというのが自分の中のイメージ」

 試合結果に甘んじることなく、「もっと上手になりたい」という強い気持ちは、レギュラー時代からずっと変わらない。シニアの試合に出場するようになってから変化があったとすれば、プレーで魅せるプロとしての意識だ。

 「見られているという意識は常にあります。見られていたいという意識は、シニアになってからの方が強くなったかもしれませんね」

 その意識は、女子シニア選手を取り巻く特殊な環境と無関係ではないだろう。

 シニアの女子プロゴルファーとして

 50歳以上の選手が競う日本男子シニアツアーでは、女子プロゴルファーに比べて、まだまだ飛距離の落ちない選手たちが、ギャラリーの歓声に応えてみせる。しかし、シニアの女性選手の場合、試合会場にメディアが集まることもなく、観客もほぼ入らない。

 「正直、シニアでは、選手の差がすごく出る。若い時は若いだけで、みんながエネルギーに満ちあふれている。ウェアも別にたいしたものでなくとも、輝ける素材をもっている。シニアになったらそこの差が歴然としていて、体も、身なりも、プレーの差も出る」

 練習環境も大きく異なる。レギュラーツアーでは、正規のコースが練習場として開放されるが、シニアになると練習場の確保は選手側の負担となることも珍しくない。スポンサーのサポートの有無も含めて、「レギュラーのときに当たり前だった環境がシニアになるとありがたいと感じるようになる」のが現実だ。

 現在、日本の女子ゴルフ界では、レギュラーからシニアの過渡期、30台半ばから45歳未満の選手が行き場を失っているという。かつては岡田美智子選手が50歳でレギュラーツアーの最年長優勝記録を作り、30歳で「ゴルファーとしては脂がのってきた年齢」と言われていた。今日では10代の選手の活躍が目立ち、中堅という世代を通り越して、ベテランから新人に世代交代が起きている。花形選手の低年齢化は、ゴルフに限らずスポーツ界一般で進行している現象であり、若さはメディアや観衆にアピールする最も効果的な要素のひとつだ。

 「やっぱりスポーツってスターが必要なのかなって思って。テニスだと錦織君だし、メディアの影響も大きい」

 年を重ねることによるルックスやフィジカルな変化、環境の違いに屈することなく、白戸選手のプロとしての矜持は揺らがない。

 「どんなにゴルフが好きで練習しても、お披露目する舞台がないと私たちは成り立たない。一度レギュラーでギャラリーがいるところで賞賛される感じを味わって、それが記憶として自分の中に入っているので、その感覚ってありますよね」


 チャレンジを「楽しむ」

 予選を通過できない、試合に出場できない、「どこに向かおう、何に向かおう」と自問する日々を、1年間過ごしたこともある白戸選手だけに、「一番になった時の優勝の味」は他者と分かち合うことができる無上の経験だ。

 「自分がイメージしていたよりも、周囲の人々がよろこんでくれるのを見たときに、やっぱり優勝ってすごいって思いました。自分が今、好きなものをやらせてもらっている環境の中で、結果が出て、喜ばれるというのは、これはもう幸せだなぁってつくづく感謝しかないですね。ありがたいって」


 2018年に全米シニア女子オープンが開催されるというニュースに新たな意欲を覚える白戸選手。何が起きるか分からない時代だからこそ、目の前のことに集中し、日々自分ができるトレーニングを行い、楽しむ。

 「楽しむっていうのは、言葉って捉え方ひとつでいろいろあると思うんですけど、チャレンジできることの楽しさなのかな。エンジョイじゃないですね。今できること、自分がチャレンジしていることを、試合の場でどのくらいできたかなというのを見に行くという感じかな」


 年齢を言い訳にしない

 そして年齢を言い訳にしない。『アリナミンVカップ』で優勝を争った黄玥珡選手は白戸選手より10歳以上年長の1955年生まれ。それでも「ショットは私より切れていた」という。

 「私はそこまでやれているのかなって… でも先輩でやっていてくれている人がいると、目標にはなりますよね。体って不思議で年齢じゃない。いつからでもスタートできる。だから諦めたくないですね。積み上げてきた分があるだけ、シニアという世界で違う舞台で発揮できるのではと思います」


 ゴルフを続けているのは、「『普通の仕事』ができないから」と笑いながら、新たな目標に向かってゆるがない決意をのぞかせる。

「今年は4試合。やっぱり勝ち星を重ねたいと思っているので、全力でいきます」


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